足取り階段 ~実録・郵便配達怪談~

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世の中には「ヤバイ物件」というのがある。

心霊的にヤバイものから、住人がマジキチなのも含め、
「ヤバイ物件」

そうゆうものに多く関わるのは主に不動産屋だと思うが、
実は郵便屋もその手の怪しい物件にぶち当たる事がある。

だって・・・配達先は自分じゃ選べないからな。

ヤバイ物件への配達

描く事をやめていた4年間、
私は郵便局の集配課で朝から晩まで毎日赤バイを乗り回していた。

とはいえ、別に郵便屋さんはバイクに乗ってればいいってわけじゃない。

書留・速達・ゆうパックetc・・・
ポスト投函ではなくお客さんに手渡ししなければいけないものは結構多い。

だから、一日何回もバイクから降りて、
戸口まで走っていく。

一軒家ならまだいいが、古いアパートだと階段しかない所なんてザラ。
ここで培った体力で、やめた今も山を登ったり一日中バイクで走り回れるのだ。

そして、どの配達地区にも色んな意味で
「ここ、ヤバくね?」
という建物や部屋があった。
(腐敗臭のする部屋とか、893の事務所とか、メンヘラ親父の住んでる部屋とか)

これらの‟問題物件(住人)”について、
たまに喫煙室で話のネタとして盛り上がる。

しかし‟話のネタになっても、誰も気に病むことがない”

仕事だから当たり前っちゃ当たり前だが、ぶちゃけた話、
幽霊や怪異よりクレーム電話とDQN客のほうが怖いのが郵便屋。

というか、忙しすぎて全てどうでもいい。

相手が幽霊でも妖怪でも、文句言わずに書留にサインかハンコくれりゃ、
もうそれでいいのである。

T荘という物件

私の配達地区にも「なんだかなぁ」という物件はいくつかあり、
その中の一軒が「T荘」だった。

T荘は見るからに生活力のなさそうな人間の吹き溜まりみたいな所で、
実際住んでいるのも独居老人と頭の飛んでる人だった。

外観はちょっとした台風で壊れそうなほどボロい2階建て。
日当たり良好のはずなのにいつも湿っぽく、ドンヨリと暗くカビ臭い。
1階と2階にそれぞれ3部屋ずつあった。

建物の西側に錆びて崩れそうな鉄階段が申し訳なさそうについている。
集合ポストはこの階段の横にあったから、普段はそこに郵便物を入れていた。

そのT荘の2階の真ん中の部屋のOさんには定期的に現留(現金書留)が届く。

このOさん、老人というほど年寄りではないえぇ年のオッサンなんだが、
やっぱりちょっと飛んでるらしい。
というか、完全なヒッキーらしい。

この人は何故かいつもあからさまに家にいるのに絶対に一回の訪問では出てこない。
不在通知を一度入れて再配達にしないと出てこないという面倒臭い人である。

皆が転びそうになる謎の階段

そんなわけで定期的にT荘の崩れそうな階段を利用した。

その階段はアパートなどの外によく見られる段と段の間に隙間が空いたタイプで、
一段の幅も狭いし結構傾斜がキツイ。

そんな階段なので、当然上り下りは気をつけているのだが、
なぜか毎回同じ所で転びそうになる。

気をつけて下を見ているのに、
毎回同じ段差で足を取られるのである。

その度に横の汚い手すりを握って事なきを得るが、
その手すりもボロボロだからヘタに握るとポキっと逝きそうで正直あまり触りたくなかった。

 

ある時、たまに夜勤でそこに配達にいく同じ班のYくんとその話になった。

Y「あ~T荘ね。ヤバイっすよね、あそこww ガチ地震来たら潰れるってww」
私「ま~ビジュアル的にもキてるよね。
Oもキてるけどね・・・所でさ、あそこの階段絶対足取られて落ちそうにならへん?

Y「あ~なるなる。毎回必ず落ちそうになるww
私「それってさ~真ん中の踊り場的な所より下の○段目あたりじゃね?」
Y「そうそう、そこそこ!なんでかなぁ、絶対毎回同じ場所なんすよね
スゲェ気を付けてるんだけど、毎回転がり落ちそうになってヒヤっとする」

そこへ松崎シ○ル並に黒い班長が通りがかる。

班「あ~、あそこの階段だろう?気をつけろよ、
俺もいっつも足取られるんだよ!!

まさかの、班長まで(;・∀・)

 

T荘の階段は“L型”に折れているんだが、
みんながコケそうになるのはその真ん中より下の部分だ。
なぜか上のほうは大丈夫。
仮にそこでコケたら、
そのままかなりの勢いでコンクリートに叩きつけられる事になると思う。

皆で「あそこ、落たら死ねる気がするww」と雑談の一つとして笑い飛ばしていたんだが
実際、落ち方悪けりゃ確実に死ぬと思う。

皆が足を取られる所は前の道路まで遮るものがない。
裏路地といえすぐ前は車が通る道である。

あの傾斜だ。
うっかりしたら道路まで転げでて車に轢かれるか、お向かいの植木に突っ込める。

しかし、3人が3人同じところで毎回足を取られるって変な話だな。
そう思って、私は何気なくその話をジジイにしてみた。

ジ「階段の“端っこ”を歩いてごらん。手すり掴まなくても落ないから」

・・・とニヤニヤ笑いながら言った。

その後「まぁそのうち分かるから。今はほおっておきなさい」と言われ、
素直な私は「そんなものか」と特に追求しなかった。

次にそこの階段を通る時、言われた通り階段の端っこを降りてみた。

とはいえ、階段の横幅自体も狭いから端っこといってもほぼ真ん中と変わらないんだけど。

あれ?コケそうにならない。

あれほど気をつけて歩いても転びそうになっていたのに、全然足を取られない。

それ以来、T荘2階の上り下りは端っこを歩く事にした。
試しにYくんにも「端っこ歩くといい感じ」と伝えると、
どうやら彼も同様だったらしい。

足取り階段にいるモノ

それから数ヵ月後、私はまた絵の道に戻るために忙しい配達員を辞めることにしたんだが、
やっぱりT荘の階段が気になった。

なんで真ん中がダメだったんだろう。

もうすぐ二度と来なくてよくなる!となると妙に気になる。

そしてそんな時には・・・・変なものとピントが合ってしまう事がある。

その日、T荘には配達がなかった。
向かいの一軒家にだけ配達をし、振り返った。

皆がいつも「足を取られる」という階段の真ん中に
‟それ”は見えた。

階段を突き抜けるように半透明の黒い物体が見える。

段を突きつけて飛び出している部分は僅かだが、
しかし確実にニョキっと丸いものが出ているのだ。

そして段と段の間から首から肩にかけてが見える。

くたびれたように前かがみの背中と、肩にかかるよれた肩紐。
どうやらランニングシャツを着ているらしい。
とってもグ○ゼデザインのランニングシャツ。

更によく見れば、階段に飛び出ている頭部と思われる部分はハゲ上がり、
毛がチョロチョロと生えている程度だった。

つまり、それは・・・・

ランニングシャツのハゲオヤジの後ろ姿。

そのハゲオヤジ風の何の頭が飛び出しているのは、階段のど真ん中

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

なるほど、分かった。
どうやら皆、あのハゲ頭を踏んで足を取られていたらしい。
僅かとはいえあの見事にハゲた丸い頭を踏んだらバランスは崩れるだろう。

ジジイの助言通り、足を置く場所を
僅かに端にズラせばあの頭を踏むことはないわけだ。

納得した、大いに納得した。

私は口の中で「あ~、なるほど、なるほどね。謎が解けました」
と言いながら、バイクにまたがり配達を再開した。

 

勿論、この話は局の誰にもしていない。
しても仕方がない事だし、そもそも私は0感だ。
私が見たものが本当にそこにいる霊的なものだと断定出来ない。

それに、私の配達区域だけでもおかしな物件は多々あるのだ。
そんな細かいことをいちいち気にしていたら配達員なんぞ務まらん。

事情を知っているジジイとダンナだけが、私の話を聞いて大笑いしていた。

 

局を辞めて数年たったが、
今のところ私の代わりにT荘に配達に行っている班の誰かが
T荘階段から転げ落ちたという報告はまだない。

そして当然のことながら・・・・・

T荘はまだある。

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