蝶異聞

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高山という土地を訪れると、妙に目につくのが蝶である。

前回水無さんを訪れた時は、ずっと蝶がついてきていたし、
高山には蝶の博物館があるらしい。
そして高山のある岐阜県の名を冠した「ギフチョウ」もこの辺りには生息しているそうだ。
バイクで走っていてもアチコチで蝶が飛んでいるのを目にする。

蝶、蝶ねぇ。
そういえば、うちの無口な祖母も蝶についてこんな話をしていたな。

黒い蝶の話

普段あまりモノを言わない寡黙な祖母が、
夏になると虫捕りをして遊ぶ弟と私によく言っていた事がある。

「黒い蝶だけは捕ったらダメだぁ。触ってもダメだぁ。
特に墓場の側の奴はなおダメだぁ。
黒い蝶は仏が乗る。触ると怒って憑くがらなぁ」

当然の事ながら、この“仏”というのは、観音とかの仏ではなく、死者の意の仏だ。

まぁ祖母から言われずとも、私や弟の興味はオニヤンマやギンヤンマというトンボが主体で、
蝶には見向きもしなかったんだが。

黒蝶に限らず、蝶というのは世界的に色々な伝承や逸話が多い虫だ。
キリスト教では“復活の象徴”とされるし、
古代ギリシャでも“霊魂、不死”の象徴とされている。

日本では吉と凶の二面性がある取り扱いのようだが、
基本的には人気のモチーフだ。
平家の紋にも蝶のものがあったし、
そういえば東大寺の大仏殿には8本足の異形の蝶がいて、その足の数がよく話題になっている。

だから、祖母さんの話も別に珍しいもんではないのだろうが、
普段喋らねぇババアが、オマケに何の脈絡もなくポツリと言うので薄ら寒い。

そういえば何かの本で読んだはずだが、こんな話もある。

ある盆の時期、数年前に死んだ男が帰ってきた。
家人が驚き経を唱えると、その姿が崩れて無数の黒蝶になって飛んでいったという。

この話のように姿が無数の蝶に変わったとか、
死者が蝶に化身して人を脅かすとか、
死者の姿がかき消えた後、傍に一匹の蝶がひらりひらりと飛んでいたとか、
そのような不思議な話が今も脈々と語り継がれているのだ。

蝶という生物

まぁ確かに蝶というのは身近にいながら不思議な生き物だ。

幼虫時代は余程の虫好きでなけりゃ怖気立つ姿で地を這いまわり、
時が来れば蛹になり蝶になる。

このように幼体と成体の形が全く違うものを
「完全変態(メタモルフォーシス)」と呼ぶ。
昆虫世界では珍しくないが、それでもやはり蝶のあの姿はやや反則な気がする。
‟みにくいアヒルの子”どころではない、
完全に別の生き物だ。

昔の人が蝶の生態について何処まで把握していたかはさておき、
この仮面ライダーやウルトラマン以上の変身ぶりに、
不死や再生という奇跡を夢見たのだろう。

祖母という人

夏が来て黒い蝶が舞うのを見る度に祖母の言っていた事が脳裏をよぎる。
それと同時に家族の中で一番謎の残る祖母の事を思い出す。

本当に自分の事や親兄弟の話をしない人だったから、
子供の頃どうしていたとか、
どうゆう経緯で祖父さんの嫁になったのかも分からん。

大正生まれに似つかわしくない背高で、
多分160~165cmはあり、同年代の婆様に混じっていると
非常に目立ち更に大きさが際立つ。

その目立つ見た目に反して喋らないし笑わないのだが、
子供の私や弟を連れて結構方々へ行き、
当時普及していたコンパクトカメラでよく写真を撮っていたので、
根暗や引きこもりの類ではなく、単純に寡黙な人だったんだろう。

そんな普段物言わぬ祖母が、たまにポツリというのが
まぁこうゆう不思議な話で、
蝶の話は、祖母がそうして呟いた数少ない話の一つだ。

確かに郷里には蝶にまつわる不思議な民話もある。
が、黒い蝶って限定して言ってたのって祖母だけなんだよなぁ。

全くないわけでもないようだが、そうゆう話が残っているのは県内でも
実家から相当離れているから祖母が知っていると思えないんだ。

信心深いってか迷信深いって意味では、
母方祖母のほうが父方祖母より度合いが高いが、
母方祖母からはそうゆう話は聞いていない。

母方祖母は非常におしゃべりだったし迷信めいた事もよく言っていたけど、
どちらかというと‟ゲン担ぎ”とかそっちの話が多かったからね。

 

昔は祖母が語るそうゆう不思議な事は「夜口笛を吹くと蛇が来る」くらいに
「あぁそうゆう伝承があるのかな?」って思っていた。

ただ・・・たまに祖母が語った不思議な話は、
祖母の実体験だったんじゃないのかと思う時がある。

祖母の語る話は世界や全国という広い範囲で見ればそう珍しい話ではないが、
身近な人からは聞いた事がない話ばかりだったからな。

まぁこう思うのは、こんな不可解な話をWebで書き綴るようになり、
昔聞いたアレコレを思い出したからなんだけど。

 

祖母自身はどうか知らないが、祖母の姉妹は軒並み‟怪異を見る人”だったらしい。
そして、その話を教えてくれたハトコもそうゆう質だった。

田舎では周囲と違うと言うのは非常に危険な事である。
ましてや、祖母は最近では近所だが、昔であればかなり遠くから嫁にきた余所者だ。

親父がいつも愚鈍と責め立てていた祖母の寡黙さは、
うっかり口を開いて余計な事を言わないための処世術
だったんじゃないだろうかと、
最近になってふと思ったりするのだ。

蝶とは不思議な生き物だ

いつも蝶を見かけると、他にこんな生き物いるかなぁと考えるんだが、
いまだに似たような生き物を思いつかない。

羽音もさせず、鳴きもせず、
あんなに美しい姿なのに自らは何の主張もしない。
いつの間にか傍にいて気付くと消えている。
一部の擬態をするものもいるが、彼らはあまりにも無防備だ。

数回、目の前で鳥が蝶を咥えて飛び去るのを見ているが、
蜂のように針もなく、
カマキリのような鎌も持たないにも関わらず、
隙を見て鳥の口からヒラリと逃げ出すのだから大したものだ。

 

冒頭で子供の頃の話を少ししたが、祖母に言われるまでもなく、
私は一度たりとも蝶を掴まえようと思った事がない。

実を言うと蝶は興味がないというより、
少し不気味で近寄りがたいものがあった。

最近はそんな空恐ろしさは失せて、眺めるくらいというか、
姿は美しいと思うし、絵のモチーフとしても悪くないと思うが、
やっぱり得たいが知れないと思う部分はある。

そして祖母にも少しそう思う処がある。

 

今年はあまり黒蝶を見ていないが、

私の知らない所でこの夏も死者を乗せた蝶が
人知れずこの国の空を舞っていたのかもしれない。

 

余談:一族の女たちと蝶

全くもって余談だが、よく夢を見て夢を記憶している私は、
数年に一度、うちの母方の身内・・・特に女が出てくる夢を見る。

面白いのは、そうして出てくる女たちは何故か皆
一様に蝶をあしらった着物で出てくるという事だ。

着物の様式や色は様々で、訪問着のようだったり、
黒留袖だったりするが、
何故か必ず見事な蝶があしらわれているのだ。

「なんで蝶なんだ?」
と思う私も蝶の刺青を入れている。

ちなみに蝶にまつわる民話のようなものは、何故か関東や関西にはなく、
北に限定されているそうだ。
(蝶の民俗学という本でそのように作者が語っているらしい)

そういえば最近巷に溢れるスピリチュアルな記事で蝶は高次の存在からの使者とか
そんな話が書かれているが、それは今回の話とはまた別である。

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