喫茶店・サン丸遺失物奇譚2

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20代の頃バイトしていた喫茶店は、
もはや70を過ぎようというチャキチャキの名古屋っ子の
婆さんが切り盛りする小さい店だった。

飲食店は散々務めたが、思えば変なエピソードが一番
多かったのが、ここ‟喫茶・サン丸(仮名)”である。

喫茶店の隣は×××

名古屋の中心部からやや外れた場所に位置する
喫茶・サン丸の隣には
小さいながらも寺があった。

サン丸は基本常連だけで回っている店だが、
稀に狭い店内が喪服の人で埋め尽くされる事がある。
隣の寺で葬儀などがあった場合だ。

そんな時には、
チョイチョイ注文数と人数が合わなかったりする。

ママは年とはいえこの道20年以上だし、
私は私でもっと大きな店にいた事もあるので、
いくらギュウギュウでも8畳程度の店で数え間違いはない。

まぁ・・・たまに‟混じっていた”のである。

 

弔問客で満員じゃなくとも、
飲食店というのは、実は結構怪異がいる。

あぁゆうもの・・・特に‟元・人間”は
大体腹を空かせている奴が多いらしく、
人にくっついて手始めにやる事は
‟食らう事”
である場合が多いらしい。

実はその習性を利用して、
ちょっとしたものを飲食店で外すというやり方もある。
もう少し言えば‟怪異を店に置いてくる”という事だ。

そして、飲食店にとってこれがマイナスになるとは限らない。

その程度の‟ちょっとしたまじない”で外れるものは、
ただ腹を空かせているだけの益体もない怪異の場合が多い。

そして先に話した通り腹ペコだ。
腹ペコなのに自力では食えない。

自分が食う(食う気分を味わう)ために、人を呼ぶこともある。

ハサミと怪異は使いよう。
・・・まぁ怪異が福の神に転じる事もあるってことよ。

ただ、怪異と言っても色々いるから、
「お!そうか!!」
とすぐにやるのはお勧めしないけどね。

自分の体調やメンタル、体質によっては本格的に憑くから
そして怪異の全てが人を呼ぶとは限らないから。

 

まぁそんな調子の変な店だった。

思えば満席じゃない時も‟水を一つ余分に出す”という
怪談あるあるも、ここでは当たり前で、
ママも「そんなものよ」という風だった。

ママ曰く、そうゆう事をやるウェイトレスが入ると、
店が繁盛するらしい。

最初に話したことをママが知っていたかは謎だが、
理には適っている。

怪異は大体‟かまってちゃん”で、たまにであっても
チャンネルが合いやすい奴に付いてくる。
何しろ、自分を認識してくれる可能性がある人間だからな。

だから無視してやるのが一番いい。
無視が最大の防御である。

まぁ無視してもついてくる奴はついてくるが、
それはまた別の話よ。

真夏の×××な忘れ物

そんなある日のサン丸。
その日も名古屋特有の猛暑。

一人の中年女性が汗だくになりながらドアを開けて入ってきた。

店の前は片側3~4車線くらいの広い道路しかないから、
真昼間は日影がない。
オマケに照り返しが酷い。

来る人が汗だくで死にそうになっているのは珍しくない。

が、その人は変な包みを持っていた。

180cmはあろうかという細長い板状のものを布でくるんで担いでいる。

なんだあれは?

で、それを座席に立てかけようとしているが、
何しろ長いので収まりが悪い。
しかも長すぎて後ろの席の客に当たりそうだ。

待て待て待て。

私「すみません。さすがに座席だと危ないので、
ちょっとお預かりしてもいいですか?」

そう言って預かると、了承を得て店の外の壁に立てかけた。
帰りは勝手に持って行ってもらえるようにだ。

女性の持っている様子から軽そうだとは思ったが、
実際持つと軽い。
幅も20cmくらいしかなかっただろうか?

中身・・・なんだろうなぁ?

この時点で私の頭に浮かんだ細長い板状のものといったら、
スキー板しかなかったが、重さが違うし、真夏である。

まぁいいや。
客商売では客を詮索するとロクな事がない。
どの道、この人もいちげんさんだろう。

確かランチ後の時間で、
中年女性はアイスコーヒーだけを頼み、
それを涼みながら飲み干して帰っていった。

・・・が、

私「あ~!!あのお客さん、荷物忘れていっちゃったよ!」

そう、最初に預かったあの板状のものを
その人は忘れて帰ったのだ。

私「ちょっと、こんなデカイの忘れないだろう、普通(;・∀・)」

店の外に出るが客の姿はない。
出てすぐに脇道もあるから曲がってしまったんだろうか?

まぁ流石にこれはすぐに気づいて戻ってくるだろう。
しかし、一応中身は確認しておくか。
そんなに厳重に包んでいないし、貴重品という事はなかろう。

で、客の引けた店内で包みの上をそっと開いてみた。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

中から出て来たのは、卒塔婆だった。

ちなみに卒塔婆とは、墓場にあるアレだ。
よく墓の後ろに建てられている板が卒塔婆だ。

※これな、これ。

今まで、色んな所で色んな忘れ物は見たさ。
見たけどさ・・・・・

卒塔婆忘れてった人初めて見たよ、俺!!

マ「きっと、隣のお寺で書いてもらったのね(;・∀・)」
私「でしょうね。しかし、忘れるか、こんなもの(-_-;)」

っていうか、普通担いで持ち運ぶものなのか、これは。

それから数分後、女性は忘れ物を取りに来た。
勿論、ツッコミ不要で返した。

っていうかさ、いくら新品とはいえ、
これ横に置いて珈琲飲むつもりだったんかいな?

そりゃ、確かにうちは「〇〇持ち込み禁止」なんて
張り紙はしちゃいねぇが・・・
そこは暗黙の了解というか、暗黙のルールはあるだろう。

さすがに飲食店に卒塔婆持ち込むのは駄目だろう。
ついでに言えばお骨もだ。

これは後からダンナに聞いた話だが、
卒塔婆を書き直してもらったら普通はそのまま墓へ直行するそうだ。
途中で珈琲を飲んだり、ましてや店に卒塔婆を忘れはしないとの事。

 

ライスワークとはいえ
何だかんだで気に入っていた飲食店業から
足を洗ったのは、
これに限らずあまりにも変な客が増えたせいもある。
私は怪異だけじゃなくキチとの遭遇頻度も高いのだ。

飲食店に限らずだが、この国の人間はそろそろ
「お客様は神様」という考えを
改める時期なのかもしれない。

最近電車に乗ると
‟駅員に暴力をふるうのは犯罪です”
というポスターを見かけるが、
本来、そんな事は言われなくても犯罪だと
認識してないといけない事だと思う。

駅員に限らず、どんな職種の人に対してもだ。

今日殴った店員が、明日は自分の客になるかもしれない。
それが世の中の狭さで因果だ。

それが身に染みているので、一緒にいる人間に笑われても
飲食店およびその他の店で最後に
「ありがとう」
「ご馳走様」
と言うのを私は欠かさない事にしている。

勿論、忘れ物のチェックもだ。

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