“神さんのかあさん”という田舎の拝み屋

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私が“怪異”と呼ばれるものに度々遭遇する明確な理由は、
今も昔もよく分からない。

よく分からないが、どんなものにも
「不幸中の幸い」
というのは存在する。

世の中には色んな怪異に関わる人がいるが、
私は人生の最初の頃に中々よい人に面倒を見てもらえた。

私が人生で最初に会った怪異の専門家は、
和装の似合う小さい婆ちゃんだった。

田舎の風習

うちの父方は私の知る限り代々“田舎百姓”だったが、
母方は戦前くらいから雑貨屋を営んでいた。

その店を切盛りする祖母は、
とても神仏を大切にする人だった。

とはいえ、それだけで別に某学会員でもないし、
その他の新興宗教にも入っちゃいない。

日々、仏壇と神棚の世話をして、
必要なら馴染みの寺などへお札お守りをもらいに行く。

特別な事などは何もせず、ただ
昔から言われているアレコレソレを真面目に
守って暮らす。

そういや、家族が遠くへ出かける時は、
必ず火打石を叩いていたな。
銭形平次の嫁がやってるアレだよ、アレ。
うちの祖母さん、アレをリアルにやってた(笑)

まぁよくいる感じの
“信心深い田舎の婆さん”
が、私の祖母だ。

祖母の口癖は
「いつも神さん仏さんが見とるかんな」

じゃあ祖母さんは物凄くイイ人だったのかというと、
人格的には結構微妙だ。
深くは語らんが、本当微妙だ。

 

そんな祖母宅の傍で暮らしていた子供の頃は、
年に数回母の実家に皆で集まる事があった。

親族全員仲が良くて・・・と言いたい所だが、別にそうじゃない。
なにがしかのご神事がある時
一族郎党とはいかんが近しい身内が本家の隣にある祖母宅に集う。

何しろまだ土着の信仰が残っているような田舎だから、
多分どれも一般的な神社の祭事とは違うと思う。

確か、いつも“山神さんのお祭り”と言っていたはずだ。

勿論、そのように集まったからと言って、
何か特別な事をするわけじゃない。
我々はただ、出されたものを美味しく頂くだけだ。

そう、我々にとっては“宴会のいい口実”だった。

一人、毛色の違う客がやってくる事を覗いては。

“神さんのかあさん”

宴会のスタートにいつもやってくる人がいた。

それは地元の言い方で
“神さんのかあさん”
と呼ばれる婆さんだ。

“神さんのかあさん”と言っても、別にマリア的なアレではない。
“かあさん”ってのは、田舎の中年女性に対する敬称みたいなもので、
標準語に直すと
「神にまつわる事をする婦人」
早い話が土着の拝み屋みたいな人の事だ。

私が聞き覚えている事を言えば、
どうやらこの人は神社とは別にそうゆう神事をやっている家の人らしい。
が、それ以外具体的な事はサッパリ分からない。

何しろ母に「あの人はどうゆう人なのだ?」と聞いても
「え?神さんの事して、神さんと話するかあさんだ」
って具合なんだから仕方がない。

母も祖母譲りで信心深いほうだが、
信心深い=知識があるではない。

あとは、この“神さんのかあさん”は
母方の遠縁だそうだ。

とはいえ、何しろ田舎のこと。
向こう三軒両隣、ほぼ皆親戚だ。
特別な事ではない。

 

さて、“神さんのかあさん”・・・面倒なので“おばちゃん”は、
ひと昔前で時代が止まってしまったような人だった。

いつ見てもごく一般的な慎ましい着物に身を包み、
白髪交じりの髪を綺麗に束ね、
ゆったりとした立ち振る舞いをする。

うちの母方のババア達は皆セカセカした感じだったから、
子供心に「品のいい人だ」と思っていた。

いつぞや駅ビルで見かけた事があったけれど、
人混みの中でも容易く見つけられるほど目立つ。

この時も着物だったけど、
それ以外は目立つ要素のない小柄な老人なんだがな。
不思議なもんだ。

神事の時には、このおばちゃんがやってきて
神棚もある仏間で祝詞をあげる。
そのついでに、何か相談事のある人は
おばちゃんに話をしてお祓いをしてもらったりした。

で、子供の頃からおかしなことがついて回る私は、
親戚連中の中で一番この人にお祓いをされている。

何がなくても顔を合わせると
「なんか変わった事ねぇか?困った事ねか?」
と聞いてくれ、
「なんも心配しねくていいぞ。あんたにゃ神さんついとるで。
ちゃあんとお守り下さる」
と言ってお祓いをしてくれた。

この頃は、これは皆に言っている事だと思っていたし、
実際皆に言っていたんだと思う。
まぁうちの祖母さんの口癖と一緒だな。

そう、この頃は今こんな事になるなんて
まったく考えていなかった。

おばちゃんが何処まで把握して言っていたのか、
これも今もって謎だ。

“おばちゃん”の不思議なお祓い

私はおばちゃんのお祓いを見るのが好きだった。
今思い出してもおばちゃんは他所では見た事がない道具でお祓いをする。

お祓いっつったら、神職が使う“祓え串”(あのワサワサしたやつ)
を想像するだろうが、おばちゃんはそんなもの使わなかった。

鳴子みたいな道具をカツカツ打ち鳴らしながら祝詞や経をあげ、
最後に半紙で対象者の体を撫でまわす。
確か“半紙に悪い物を移す”とか言ってたはずだ。

テレビのお祓いVTRのように、
おばちゃんがトランス状態になるとか、
恫喝し始めるとか、
お祓いされている人が突然泣き始めるとか、
吠え始めるという事は一切ない。

やり方が独特なだけで、
どこまでも普通のお祓いだったわけよ。

ただ、おばちゃんがお祓いを始めると、いつも
“不思議なモノ”
がやってきた。

姿が見えるわけではない。
が、薄絹のヴェールが舞い降りるように“何か”がそこへ降り立つ。

色で言えば薄桃色で、手触りなら羽二重餅。
匂いだったら花の香り。
もし目の前に花が咲いているとしたら蓮の花だ。

私はおばちゃんの上げる祝詞も好きだったが、
その時だけやってくるその気配が好きだった。

見えもしないものにこう言うのは変だが、
それはとても綺麗だったんだ。

まぁついでに言えば、その後皆に振る舞われる
お神酒も楽しみだったんだけどな(笑)

 

え?それだけ?って思うだろう。
残念ながらそれだけだ。

どうもテレビの心霊番組や
昨今のスピリチュアルブームのお蔭で、
こうゆうものはもっと派手だったり、
何か特別な事があると思っている人が多い。

・・・が、実際地味だ。

おばちゃんはどんな時もごく一般的な和装であり、
別に頭に蝋燭立てたりしてないし、
神職や巫女のような恰好をしていた事もない。

特筆するべきことは、先に言った
“薄絹のような気配が舞い降りる”
これだけである。

これだって私がそう思うだけで、
他の人間がどう思っているか確認した事はない。

ただ、祖母の家に限らず、うちの実家も月命日には坊主、
年に1~2回、神職さんが来て祝詞をあげていたんだが、
こうゆう事があるのはおばちゃんだけだ。

まぁ仮にこの気配が神に連なるものだとしても、
おばちゃんは
「今、どこそこの●●という神が降りて~」
みたいなウンチクを垂れた事は一度もない。

“神は神”

みたいな超シンプルな感じ。
そしてシンプルは決して派手ではない。

田舎のスピリチュアル・・・・信仰とか神霊というやつは、
非常に地味で質素な田舎暮らしそのままなんだ。

そんな年に数回やってくる
訪問者としての“神さんのかあさん”
なんだが、

私は一度だけこのおばちゃんの家に連れていかれた事がある。

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