死ぬまで離れないモノ ~M子の怪~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

普段モノ言わぬ祖母がポツッと語る不思議な話で、こんなものがある。

「狸だの狐だのに化かされても命まで取られるこたぁない。
だけっども‟むじな”だけは駄目だ。アレに化かされたら死ぬしかね」

むじな・・・というモノ。

一般的にアナグマの事をこのように呼んだり、地方によっては狸やハクビシンを
貉と呼ぶこともあるらしいが、
当然の事ながら、ここで言われるのは‟妖の類の貉”の事だ。
アナグマは人を化かしたりしないからね。

まぁ実際に貉という妖怪が物理的にいるかはさておき、
貉に相当する怪異が憑いてしまったんじゃないか?
という人間に遭遇した事がある。

M子という子

最近はすっかり少子化と過疎のあおりを食らっている郷里だが、
私が子供の頃は、まだまだ子供が多かった。

田舎は都会に比べ進路の選択肢が少ない。
好むとか好まない以前に、大体の奴らと進路が被る。

同じ集落に住む、もしくは近隣の集落であれば幼~中、
うっかりしたら高校まで同じコースを進む事になる。
勿論、同じ箱に放り込まれたから皆仲良しか?といえば違うんだが。

そんな‟たまたま同じ地域に住んでいたが、仲良しではない子供”の中にM子はいた。

M子とは幼稚園から中学まで一緒だったが、
元々体の大きな娘で、こう言っちゃなんだが見た目も性格も
‟メスゴリラ”

小学生の頃はそのメスゴリラぶりを全開にしていたんだが、
中学に入った途端、どうゆう訳か
‟大和なでしこ風メスゴリラ”
にイメチェンしてな。
男子にちょっとからかわれると「いやだぁぁぁ」とか言ってぶりっ子してた。
(勿論見た目はゴリラのまま。ゴリラは突然人にはならんのだ)

ま、これだけなら「思春期だしね」で済むんだけど、
それに加えて急に変な事言い出しやがった。

「由貴ちゃん、私ね、人の前世が見えるのよ。幽霊だって見えるのよ」

初めてこれを言われたときは、思わず笑ってしまったけれどな。
まぁそれでも当時は同じ町内のよしみで、
本人がそう言うならそうなんだろうとは思っていたわけ。

私も丁度その辺りから、また怪異と関わるようになってしまっていたし、
自分がそうなのだから他人にも同じような事があるかもしれないって思うだろう?

そもそも怪異というのは物理的に存在しない。
しかし、感じる人間にはそれは無視できない現実なのだ。
まぁ、ある種‟心的リアリティ”にも近いと思う。

ないともあるとも証明しにくいのが、この分野なのだ。

 

まぁ本人がそう言うので、試しに私の前世を見てくれよ?と言ったら
「アイヌ人」だという。
何をどうしたらアイヌ人なのかは知らんが、
とりあえずM子的に私はアイヌ人なんだそうだ。

ほんなら自分自身はどうなのよ?と聞いたら
「私はドイツの学者の娘で、○○君とは恋人だったのよ」
と、頬を赤らめながら言う。

○○君というのは当時のM子の想い人・・・まぁご都合主義の厨二病現象ですな。
いや、まったく、そんな都合のいい生まれ変わりってあるんだかね。

 

その後もM子はガラスに映った自分の顔を幽霊と間違えて大騒ぎしたり、
定番だけど「○○さんにはキツネが憑いているわ!」
って言って大ヒンシュクを買ったり、
「私の占いは絶対当たるのよ! 預言者よ!」
とか・・・色々言ってたね(笑)

はじめのうちは「はいはい、凄いね~」って話を聞いていたけど、
途中から聞かなくなった。
大体クラスも違うし、M子は元から大ボラの自慢屋だった部分がある。
そして学区や施設の関係上、幼稚園から一緒とはいえ仲良しではない。

まぁどんな話も普通なら「黒歴史」で終了したわけよ。
普通・・・ならな。

M子の場合はそうならなかった。
彼女はその後そのまま厨二病をこじらせたのか、人生を転落していった。

M子の転落

中学時代は、ひとまず品行方正で先生ウケが良かったM子。
事あるごとに
「私は天才なの。由貴ちゃんみたいな凡人と違うのよ」とのたまってた。
・・・が、勿論そんなに賢くなかった。

M子、なにを勘違いしたのか市内で一番偏差値の高い高校を受験し、失敗。
その翌年も同じ高校を受けたらしいけど、再度失敗。

流石のM子も凹んだのか、家に引きこもってしまった

その頃、私は怪異とバイトまみれのJKライフを満喫していて、
元々そんなに仲が良くなかったM子のことなどすっかり忘れていた。
いや、元々仲の良くなかった町内の奴らとは全く付き合わなくなってしまったので、
その後M子がどうしていたかの詳細は分からない。

M子と新興宗教

確か高2か高3の秋か冬か・・・同級生のT子から変な相談をされた。

このT子というクラスメイトも田舎の人間関係の法則に則り、
町内は違うが学区の関係で幼稚園からずっと一緒だ。
ただし、マトモに口を聞くようになったのは高校で同じクラスになってからだ。

T「M子いるじゃない? あの子さ~、なんか○○って人にハマってさ。
うちにもその人の本持ってきてさ・・・どうしよう?」

M子は・・・宗教にハマったらしい(爆)

○○ってのは・・・まぁ名前は出さないが、
当時「最高ですか~!!」って叫んでたアレだ。
「足裏〇〇」とかしてて、最終的に詐欺罪でとっ捕まったアイツだ。

どうゆう経緯かは知らんが、M子はそれにすっかりご執心らしい。

ダンボール数箱の量の本を取り寄せ、親戚一同だけでなくT子の所へも配りにくるんだと。
で、「○○先生の話を聞かないと抹消される!!」鬼気迫る顔でまくし立てるんだと。

ちなみにT子は確か小~中の間、M子と仲が良かったのは知っている。
・・・が、M子が引篭もってからは、
どの程度付き合っていたのか私は知らない。

しかし、そんな話私に言われても。
そもそも、私その手の新興宗教っぽいの嫌いなんだよ。
かかわり合いになりたくないんだよ。
(それを巡って親戚のババアとガチの大喧嘩をしています)

T「由貴ちゃんはM子と幼馴染だし、なんとかしてよ!!」

いや幼馴染じゃねぇし、俺メスゴリラ友達にしたいと思った事ねぇし。
話しかけられなかったら絶対こっちから話しかけないし。
何とかする方法も知らんし、何とかしてやる義理はT子にもM子にもない。

このように丁寧に説明してやったが、T子は度々同じ事を言い、
私はその度に同じ説明をして、最終的に「知らんがな」しか言わなくなった。

そんなある日。

M子の異変

当時は片道約6キロの道のりをチャリで通学していたが、
冬季と天気が悪い日はバスに乗ることにしていた。

そんな時、路線はT子とかぶるので大体T子がついてくる。
ちなみにT子ともそんなに仲良しだったとも思ってない。

M子もそうだが、昔から何故か「くっついてくる奴」というのが絶対にいて、
T子はそのくっついてくる奴の一人だったのだ。

その日もそんな感じでT子とバスを待っていて、いつも通りバスに乗った。

そのバスが、異様に気持ち悪い。

そして車内が異様に暗い。
オマケに酷い臭いがする。
なんちゅーか・・・・獣の臭いだ。

T子を見る。
T子には全然臭いはわからないようだった。
・・・そういえば、コイツ万蓄(万年蓄膿症)だったんだっけな。

臭いはさておき、なんでこんなに暗いんだ?
確かに外は薄暗いが、それにしても暗すぎる。
電球キレてんのか?
いや・・・・ついてるし。

“なんじゃこりゃ?”と思っていたら、T子が声を上げた。

「あ、M子!」

ぎょっとしてT子が声をかけたほうを見ると、見慣れた後ろ姿が見える。
癖の強いボサボサの髪、ごっつい肩・・・M子だ

やめときゃいいのに、T子は後ろからわざわざ前方座席にいるM子へ近寄って話始めた。
「由貴ちゃんも一緒だよ」
そう言われて、M子がこっちを見た。

M子はM子の顔じゃなかった。

いや、その頬骨のガッツリ盛り上がった骨格とか、
形状記憶されている眉間のシワとかは確かにM子なんだよ。
でも違うんだ。
骨格じゃなくて中身が違うから、それに引きずられて外側が歪んで見えてる風なんだ。

なんと形容したらいいのか困るのだが、
魂が半分抜けてしまって、そこに違うものが入っているような獣の顔なのだ。

T「ほら、由貴ちゃん、M子だよ」

手招きするT子。
T子は万蓄で、その上、空気が・・・・読めない(爆)

しょうがないので私も前方へ移動する。
更に臭い。
臭いの発生源は間違いなくM子だ。

見覚えがあるはずなのに、全然知らない顔でM子が上目遣いに私を見る。
多分、完全に目の焦点は合ってなかったと思う。
それなのに目が合っている。
目が合っているというか、何かに射竦められるような感じだ。

M「あ、由貴ちゃん。あのね、今私○○先生のお話を聞いているんだけど、
由貴ちゃんは友達だから一緒にどう?
○○先生の教えを守らないと抹消されるんだよ」

やたらと“抹消される”とか“終末が”と言うM子。
物騒な言葉とは裏腹に口の端が釣り上がって笑っているようだ。

そして、M子が何かを言う度に口から‟黒い何か”がモワモワと出てくる。

気持ち悪い。
息を吐き出したら一緒に違うものまで出そうだ。

M「由貴ちゃんにもコレあげるわ。これで勉強するといいわ」

妙に膨らんだデカいカバンから、M子が何かを取り出そうとしている。
Mの視線が私から外れた。

そんな時、車内アナウンスが流れた。
“次は○○~、○○~○○に止まります”

私はすかさずブザーを押した。
勿論、降りる予定の停留所ではない。

そんな私にM子が本を差し出した。
もう見なくても経典的なアレなんだろうなぁと予測は出来た。
勿論、受け取らない。
仮に万札でもM子が触ったものは受け取れる気がしない。

肘だか手だかで押し戻すようにして、
口元を押さえながら降り際に一言言ったのだけ覚えてる。

「私は地獄に落ちようが抹消されようが構わないよ。お前自分の姿をしっかり鏡で見ろ!」

M子が何か言おうとしていたが、私は聞かなかった。
バスが止まると同時に飛び降りる勢いで降りて、そのまま昼間に食ったものを全部吐き出した。
ついてきたT子が「ちょっとぉ、大丈夫?」と騒いでいる。

ゲロゲロしながら「お前、本、受け取ってないよな?」と聞くと、受け取ってなかった。
T「一体どうしたって言うのよ。ってかさ、ね、私の言ったとおりでしょ?」

言った通りもへったくれも・・・なんだあれは?

が、ひとしきりゲロゲロやりながらふと思った。
あの臭い・・・・あれ、周りは分からなかったんじゃね?

思えば、乗客は誰ひとり臭そうにはしていなかった。
田舎のバスは小さい。
あれだけ臭かったら、しかめっ面するなり、口を押さえるなりするだろう。

T「ね~由貴ちゃん。M子の事どう思う?」
私「お前、あれを見てなんとも思わないのか?」
T「え?いつものM子でしょ? まぁ言っている事はちょっとアレだけどね」
私「そうじゃなく、あの顔!

私の思う事は、T子にはさっぱり理解できてないらしい。
それどころか私には焦点の合わない顔で始終ニヤニヤ笑っていたように見えたが、T子は
「確かにあんな無表情だったかな?」
という認識だ。

・・・ということは
・・・・あぁ、アレが世に言う「とり憑かれている」という奴だったのか。

勿論、何かが憑いているのが見えたわけじゃない。

ただ、ソレは既にM子の魂にガッチリと爪をかけ、
もうどうにもこうにも引き離す事は無理そうだった・・・・

 

その後もT子は「ね~、M子の事なんとかしてあげないの?」
と言ってきたが、私は一切取り合わなかった。

何にしても無理だ。
M子があぁなったそもそもの原因が宗教にあるのか、別にあるのかはさておき、
多分あれは何をしても無理だ。

憑物はともかく、宗教に関しても無理だ。
そもそも、未成年でバイトすらしていないらしいM子が宗教活動をしている時点で、
親が理由はどうあれそれを容認しているということだ。
うっかりしたら一家全滅している可能性もある。

それを抜きにしても、M子母はモンスターペアレントのパイオニア的な人だったから、
そもそもM子一家と関わり合いになりたくねぇ・・・・。

もう色んな意味で無理だ。
あとはこちらに火の粉が降りかからないようにするしかやる事はない。

M子のその後

その後、M子とは会うことなく私は実家から出て行った。

基本、郷里に戻る気がないので、帰省の際に誰かと会っていたのは
最初の10年くらいで、それ以降は家族や親類以外と会っていない。
だが狭い町だから、たまに知っている奴を見かける事もある。

数年前に帰省した際、たまたまスーパーでT子と思しき奴を見た。
んで、T子を見たらこのM子の一件を思い出し、母に
「なぁ、M子いたやんな? あいつ今どうしているか知ってる?」
と聞いてみた。
(母は家の向かいの病院の受付だから、町内の情報は大体持ってるんだよ)

母「さ~、なんか一応結婚したとは聞いたけど。
そういえば前にスーパーで見かけたけど、ニコリともしないというか、
マネキンみたいに無表情なのよね・・・ちょっと目つきおかしいし」

母曰く、町内の中心部でうちと違って民家に囲まれている立地条件なのに、
M子家は近所付き合いもせず、一家揃って鎖国っているらしい。

ちなみにM子には比較的明るい感じの妹もいたんだが、妹も突然登校拒否して高校中退。
しばらく引篭もり、今は何をしているのか分からないという。

 

ある時、この話をジジイかダンナにした事がある。
話を聞いて
「あぁ、恐らく貉が憑いたんだろうよ。そりゃ俺でも祓える自信がねぇなぁ」
と言っていた。
この話自体が20年以上前の話だし、‟あくまで推測”って話なんだけど。

しかし、思えば祖母さん以外から‟貉”という言葉を聞いた事は殆どなく、
この一言で何故か
「あぁ、祖母さんが言いたかったのはこの事か」
と思ったんだ。

なんだろうね、こうゆうのは理屈じゃなく該当するものは本当に「あぁ」と思うんだ。
狸でも狐でも蛇でもなく「貉」という呼び方がピッタリなんだ。

そもそも「憑く」と一口に言ってもレベルは様々で、
これについては、人によって感じ方も見解も違うだろうし、
これ以上説明が長くなるのも面倒なので今は詳しく言及しない。

今回の話に限って言わせてもらえば、
M子のはもう‟憑く”って感じじゃなかった。
なんか・・・半分食われているよう・・・だった。

一体いつどこで、そんなものをM子が拾ったのかは知らない。
そして当時あいつがハマっていた新興宗教との関連性も分からん。

だが、祖母さんの言ってた「貉に化かされたら死ぬしかね」っていうのは、

死ぬまで離れない

って言う事なんだなぁって、あの時のM子を思い出すたびに思うんだ。

まぁ何にしろ、この話はまだたった四半世紀前の話なんだよ。
こうゆうよく分からん、ちょっとずつ人の内側を食うモノが
郷里にはまだまだいるんだろうなぁ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。