黄昏の葬列

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今まで一般的な心霊譚で聞かないような奇妙なものを散々見ている。
いや、全く普通のモノも見ないわけではないが、
逆にそれは普通過ぎて一見怪異とは分からん。

分からんが・・・後からどれだけ考えても不可解なのが怪異だ。

夕暮れに飛ぶ青い光

あれは高校時代のある日の夕暮れ。
帰宅するために田んぼのど真ん中にあるバイパスを一人で歩いていた。

季節は秋。
少し風の強い日で風に黄金の稲穂が揺れる様は
この地方の人間にとっては“あって当たり前”の風景だ。
だが、この収穫前の時期しか見れない。

私は昔から、ありふれてはいるが“旬”のある
美しい風景が好きだ。

この頃は片道6キロをチャリで通学していたが、
その風景を眺めるためにわざわざ降りて歩いていた。

そんな酔狂な事をする奴は地元には殆どいない。
だからこのバイパスも車こそ通るが、
わざわざ歩くような奴もいなかった。

黄金の風景にただ一人。
これは中々気分がいい。

悦に入って歩いていると、その夕映え空にフワっと
“青い何か”が混じって飛んでいるのに気付き、足を止めた

少し薄暗くなっているとはいえ、黄昏に染まる空に細く飛ぶ
青いものは目立つ。
しかもわずかに光っている。

最初はよく田畑に貼ってある“防鳥テープ”が解けて、
陽の光に反射しながら飛んでいるのかと思った。

が、そうではない。
風に混じるように青い光の筋が飛んで来ているのだった。

普通ならこの時点で飛び上がりそうな気がしないでもないが、
この頃の私には、これに似た変なモノが人の周囲に見えていた。
だから、この青い光を見ても驚く事はなかった。
勿論、疑問には思ったが。

葬列

何気なく、飛んできた方向を見る。
これがいつも見ているものなら、
この光を発している元があるはずだからだ。

シュルシュルと飛んでくる青い光を追っていくと、
遥か遠くの田んぼの中を人が列をなして歩いている。

金の海原に見え隠れする人々は、
皆黒い服に身を包み、何処となくうつむき加減だ。

あぁ、葬列だ。

この辺りで葬列は珍しい。
珍しいというか、
この界隈で葬列を出しているのを初めて見た。

うつむき歩く人々から次々と青い光が湧いて、
それが風にさらわれ、細い光の糸のように
ヒラリヒラリと舞っている。
そしてその幾つかが風に乗ってコチラに飛んでくる。

列の理由はともかく、青い光に包まれた一団は何処か幻想的だった。
人々から立ち上る光は揺らめいて、光と言うより炎のようだった。

どれだけボンヤリ見ていたかは知らんが、
ビョッっと吹き付ける風が少し冷たさを帯びた時、
我に返った。

そして、おや?と思った。

そもそも、あの人達はどうして
あんな田んぼのど真ん中を歩いているのだろう。

何しろその人達が歩いている場所はバイパスからもかなり離れ、
辺り一面田んぼしかない。

そりゃ田んぼと田んぼの間にあぜ道はあるが、
服装から考えると足元は革靴や草履だろう。
そんな所、わざわざ大勢で歩く事はまずない。

秋の陽は落ちるのが早い。
それが山に囲まれた場所なら尚更早い。

私がぼんやりしている間も太陽は歩みを止めず、
山影に入ろうとしていた。

陽の光が失われつつある中で、
青い光だけがいやに明るく立ちのぼる。

“あれはこれ以上見てはいけない”

何故だか、そう思った。
私は歩くのをやめ、チャリをかっ飛ばし早々に帰宅した。
後ろは絶対に振り返らなかった。

葬列は何処へ向かったのか?

この話はもうここで終わりだ。
この後特に何かあったわけではない。

この話を思い出すきっかけにもなったのだが、
私は最近、ネットやGoogleマップを使い、
実家周辺の事を調べたりするようになった。

今まであった不可解な事の裏付けやカラクリが
分かるのではないかと思ってね。

まぁ、調べれば調べるほど
「尚更納得がいかん」
となっているのだが・・・・。

 

実家のある町内は、神社が妙に沢山ある場所だ。
ただ、神社は余分にあるのに寺が一個もない。

隣の集落まで行けば確かにやっと一つあるんだが、
葬列を見かけた場所からは、歩いていくには遠すぎる。
そもそも、あの葬列が向かった先とは反対方向に寺がある。

寺からの帰り道と考えてもいいのだが、雰囲気が明らかに
「これから向かいます」っていう雰囲気だったんだよ。

何でそんな事分かるかっていうと、
私も一度葬列に加わった事があるからだ。

しかも、これを見る2~3年前、14歳の時に、
他所の地域に住んでいた従妹の葬列と葬式に出てるんだ。

実際にあの中に入って歩くと分かるんだ。
行きと帰りってやっぱ違うんだよな。

当時もあんな所を葬列が歩いているのは奇妙だったので、
母と祖母に
「うちの町内では葬列を組む習慣なんてあったか?」
と聞いてみた覚えがある。

二人曰く、そんな話は聞いたことがないし、
町内で葬列なんて一度も見た事がないという。

町内の人間の菩提寺が必ずそことは限らないが、
仮に町内から一番近い寺、つまり隣の集落の寺が菩提寺なら
我が家の前を通過しなければならない。

私が歩いていたバイパスは、当時山から町までを繋ぐ
唯一の県道で、我が家は集落同士の境にある家だ。
うちの前を通らずして、東西の行き来は出来ない。

葬儀はハッキリ言って田舎じゃ大イベントだ。
そんな事があれば母か祖母が知っている。
でも知らないって事は、本当にないんだ。

それ以外の寺はどう考えても歩く距離じゃない。
だから、通常は皆車で移動する。

いや、うちの地元じゃ火葬が先だから、
火葬場へ向かったのか?
いや、火葬場なら尚更徒歩じゃ無理だ。

確かにおかしなところに墓があったりもするが、
記憶を辿ってもあの周辺に墓はない。

 

それと気になるのが、妙にハッキリと見えた事だ。

確かにその頃は今ほど目は悪くなかったとはいえ、
かなりの距離があったのに
妙にハッキリくっきりと葬列が見えていた。

生まれてこの方、マトモな視力だった事がない私に
くっきりハッキリ見える時というのは・・・・
大体、この世のモノじゃない。

この世のモノであったにしろ、なかったにしろ、
あの一団は一体何処へ向かったのだろう・・・・。

 

そんな訳で葬列の正体は結局分からない。
が、黄昏時、つまり逢魔が時の出来事だし、
そうゆう不思議もあんのかもね。

何しろ割と最近まで「河童目撃談」だとか
「狸に化かされて同じ所をグルグル回った」
という話があったような田舎だ。

狐だって嫁入りするのだ。
夕暮れ時、人ならざるものがひっそりと葬列を出しても
そう不思議でもないのかもしれない。

確かに奇怪な出来事ではあるが、
あのような怪しく美しいものが、
きっと今の私の作品にも含まれているのだ。

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