壁の穴

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うちの実家は‟出る家”であり、
一階の仏間の仏壇前の座布団は‟怪異的パワースポット”として
どうやら我が家を通過する怪異には人気らしい。

そして我が家にはもう一つ、怪異の憩いの場がある。

それが・・・私の部屋だ。

出る部屋

私の部屋は怪異が出る。

いや、ひょっとしたら両親の部屋や弟の部屋にも出るのかもしれない。
が、他の家族からは特にそのような話は聞いた事がない。

これについては本当に出ないのか、
それともいたとしても家族が認知していないのかは不明だ。

そんな訳でとりあえず仏前座布団以外で怪異スポットがあるとしたら、
私の部屋だ。

確かに方位的に言うと家の中の鬼門だし、一番裏の社に近い。
部屋には窓が二つあるのだが、
その二方向から社の入口が綺麗に見えるのは、
家の中でも私の部屋だけである。

その方位のせいなのかどうか知らんが、いつも妙に暗い。
東に窓があるから、少なくとも午前は明るいはずなんだが、
朝日が入っていても何処となく暗い。

そしてそこそこ風通しもいいはずなのに、
あまり空気が綺麗になっている気がしない。

 

家を建て直したのは小5くらいで、その頃は全く何も感じない時であったが、
それでも「ここがお前の部屋だ」と言われた時はゲンナリした。

ヘッポコ探知機能すらなくてもゲンナリさせる何かが、そこにはあった。
(壁紙は女だからって理由だけでピンクにされたし)

そして中学に上がり、ヘッポコ探知機能が戻ってくると、
そのゲンナリ度が増したのは言うまでもない。

部屋で怪異に遭遇するのは格段に夜のほうが率として高いが、
これは単純に昼間は部屋にいないからだろう。
(だって学校に行ってるし)

それと、私の‟ヘッポコ探知”から
‟ヘッポコ”が取れる時間がどうやら真夜中らしい。

正夢と言われるものを見るのも深夜に寝ている時で、
昼寝では夢を見ても普通の夢しか見ないからな。

通常の意識であっても時間によって判断力が冴えわたる時間と、
逆に鈍る時間があったりするのだから、
直感などについてもそうゆう時間が存在するのはおかしくないと思う。

そんな訳で、大概の怪異は真夜中にひっそりと私の部屋にやってきた。
が、勿論時間など関係ないものもあった。

壁の穴

あれは確か高校生の頃だったと思ったが、
ある時、ふと自分の部屋の壁にが開いているのに気付いた。

壁というか、壁と天井の境目に直径30cmはあろうかという穴が開いている。

勿論、物理的にではない。
ただ私の目に真っ黒いそれは‟穴”にしか見えなかった。

なんだ、これは?

覗き込む。
物理的に存在しないものを覗き込むというのも変だが、
とりあえずポーズ的には覗き込む。

穴はのっぺりと見えるほど真っ黒だ。
少し前に‟ベンタブラック”という「世界で一番黒い物質」の記事をWebで読んだが、
ちょうどそんな感じで、そこだけ墨を垂らしたように何も反射しない。

なんじゃこりゃ~~~~!!

駄目だ、Gパン刑事の真似しても分からんものは、分からん。
そして分からんものは触らないに限る。

紳士の国のことわざでも言うではないか。

‟Curiosity killed the cat”
好奇心は猫を殺す。

このことわざには
‟but satisfaction brought it back”という続きがあるが、
私にはここまでで十分だ。

私には猫のように9つも命がないし、本来猫だって命は1つだ。
馬鹿な事を言っちゃいかん。

でも、気になる。
まぁ経過観察と行こうじゃないか。
観察は私の得意分野だからな。

そんな調子で、私は穴をしばらく観察する事にした。

穴から出てくるモノ

そんなわけで数日経った。
相変わらず穴は開いている。

私には常に見えていた穴だが、
時々部屋に来る両親も弟も何も言わないので、
やっぱりあれは物理的にあるわけではないようだ。

別に穴から物音がするわけでなし、
触らなかったら害はないのかもしれない。
多分突然開いたのと同じく、突然消えるのであろう。

そんな調子でいたのだが・・・

ある時、帰宅して部屋に入ると、穴から何かがぶら下がっている。

黒っぽ~い、細い紐状のものが何十本と束になってぶら下がっている。

その様子は、長い髪の人間が逆さまに上からつるされて、
その髪の先だけが穴からはみ出しているように見える。

・・・・まさかなぁ。

確かに直径30cmもあれば、頭が小さい人なら穴から頭は出せるだろう。

頭は出せるが肩は出ない。
ん?あれ?そうすると、よしんば頭は出せたとしてもそこから先は出ないから、
何か出てきたらずっと頭だけそこにある事になるわけ?

別にこれまでも手だけとか、足だけとか見てたけど、
流石に頭だけってちょっと嫌だよ。
ビジュアル的に嫌だよ。
流石の私でもそんなもんが壁から生えた部屋で寝起きするのは嫌だ。

そして寝起きより何より、
部屋にいられなくなったら、
家庭内で隠れて絵が描ける場所がなくなる!!(←最大重要事項)

私は別に特別剛胆な性格ではないんだが、
自分のテリトリーを侵害されるのだけは我慢ならない。

いや物理的テリトリーというよりも、
そこに発生するプライベートタイムを邪魔されるのが嫌なんだ。
それが神だろうが怪異だろうが、何でもだ。

何人たりとも、私のプライベートタイムを侵害する事は許さん!

 

「ひっこめ!!それ以上侵入したら家宅侵入罪で訴えるからな!!」

・・・・・にゅ↑

・・・・引っ込んだ!!

「よし!そのまま帰れ!とりあえず帰って穴塞げ!!」

にゅ~~~~~~↑

ぶら下がっていた髪と思しきものは、
ゆっくりと穴の中に消えていく。

「よ~しよ~し。そのまま・・・元の所へおかえり」

更に消えていく。
数分後、壁には穴だけが残った。

そしてこの穴も日を追うごとに小さくなり、最終的に消えうせ、
私はささやかな平穏と家庭内でのテリトリーを取り戻したのである。

 

実話のため、これ以上のオチはない。
何度も言うが、実話は大体物語のようなオチはつかない。

あまりにもオチも意味も見当たらないので、
この話は今まで人にした事がない。

まぁ他人の話でも似たような話は聞いた事がないので、
この穴が一体何だったのかはいまだに分からない。

そして何で少々怒鳴りつけたくらいで、
出かけていたものが引っ込んでいったかも分からない。

まぁこれに関しては、やっぱり気合なんだろう。
気合や根性で物事がどうにかなるというのは脳筋の愚かな考えではあるが、
ある程度の怪異にだけは有効のようだ。

後日談

後日談というか、後年談だ。

実家を出てもう20年以上経つわけだが、
私の部屋は現在物置として使用されている。

まぁ私が「その部屋はもう使うな」と言い渡したからだけど。

ただ、割と最近弟がその部屋に泊まった時、少し変な事があったそうだ。

その際は、実際その部屋で寝ていた弟に・・・というよりも、
その対角線上にある部屋で寝ていた母のほうに異変があったという。

母曰く、寝ていると真夜中に目が覚め、
その際に何者かが布団の下を走り抜けていったそうだ。

翌朝、弟に何かなかったか?と問うと

「こっちは何もない。大方、普段部屋に来ているモノが、
俺に驚いてそちらに行ったんだろう」

と笑っていたらしい。オマケに
「どうせ姉さんの客だろう?」と。

母もそうだが、弟よ。
お前まで一体姉を何者だと思っているんだ?
私はお前の姉イメージが一番怖い。

ただ、弟の言い分はそれなりに妥当だとは思う。
私と弟は顔かたちこそ似ても似つかないが、
何故か醸し出す雰囲気だけはよく似ている。

怪異と言うのは、それそのものが実体がなく、
雰囲気や気配だけ存在するものだ。
ゆえに、他者を認識する時も姿かたちではなく、
雰囲気や気配を頼りにするのかもしれない。

ひょっとしたら遠目に見て、私だと勘違いしたのかもしれないな。

過去に弟以外の人間がそこで寝ていた事もあるらしいが、
その時はどちらにも何もなかったようだし、
やはり弟の雰囲気を私だと勘違いして寄ってきたのかもしれない。

そうして考えると期待させて申し訳ないという気はする。
まぁ怪異が何を求めてやってくるのかは定かではないがな。

私はこれまで別に部屋で怪異に遭遇しても、
成仏させてやったとかそうゆう事は一切ないからな。

 

弟、というか弟家族はこの春から実家に戻ってきて、
私の部屋は言いつけ通り、そのまま物置になった。
住人の人数的に一部屋封印した所で、別に困る事もない。
客が来ても和室が2部屋もあるのだから、そこを使えばいい。

だが、たまに思うのだ。

あの穴は今も時々人知れず開いていて、
そこから人ならざる何かが出入りしているのではないかと。

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